「精霊」は島の人々に死を知らせに来たのか!?
その言い伝えは本当に起きたのです。
イ二シェリン島に精霊が降り立つとき、精霊は死を知らせるという伝承どおりに。
美しい海と空に囲まれたアイルランドの離島
しかし、この閉塞感はなんだろう?
関係が近いのに踏み込めない人間関係。
親友だと思っていたコルムから絶交を言い渡されたパードリックは思い悩む。
嫌われたのか?しかし、理由が分からない。
賢い妹シボーンの存在、風変わりな青年ドミニクとのやり取り。
コルムが愛する可愛いロバ、パードリックの愛犬、働き者の馬や牛たち。
海は美しく、空は青く、空気は澄んでいる。
そして、
本土からは内戦の砲弾の音が常に聞こえる。
この内戦はいつまで続くのか?
どうせまた始まる、、、。
最後の解釈は観る人によって違うでしょう。
映画『イ二シェリンの精霊』あらすじ
(ネタバレ)、解説と考察をお伝えします!
らすじ(前半)を解説と考察
【あらすじ前半】
4人の主要人物の物語は、
①パードリックとコルム
パードリック(コリン・ファレル)が
親友コルム(ブレンダン・グリーソン)に絶交を言い渡され思い悩む様子。
②妹シボーン(ケリー・コンドン)
聡明で美人の妹シボーンが
兄を心配しながら
自分の人生を高めるために島を出る決断をするまで。
③ドミニク(バリー・コーガン)
変わり者で頭がわるいと思われている。
ドミニクが父親の暴力に悩み耐えながら繊細な一面を見せる様子
これらに島民が絡みながら、進行する物語。
本土から聞こえてくる内戦の砲弾を気にしながら、、、。
私は特にこの①~③の主要人物たちの行方を気にしながら鑑賞しました。
死を知らせた伝承のバンシー(精霊)は、
島に住む預言者マコーミック婦人でした。
やがて
彼女の言う通り、二つの死体(ロバとドミニク)が上がりました。
映画『イ二シェリンの精霊』 ネタバレあらすじ(後半)解説と考察
【あらすじ後半】
①パードリックとコルム
本当にいい人だなあ、と思えるパードリック。
コルムはどうして左指を二度も落としてまでパードリックを遠ざけようとしたのでしょうか?
指がなくてはこれ以上演奏できません。
左指がなければ、バイオリンの弦を押さえることはできません。
音楽家として致命傷です。
パードリックは音楽家としての限界を感じていたのではないでしょうか。
そして、
コルムはパードリックを変わらず大事に思っていることも気になります。
最後は
最愛のロバの死が、パードリックに憎しみの心を生みましたが、
まさか、コルムの家に火をつけるなんて!
信じられない行動です。
私はパードリックの変化がとても残念でした。
でも、
- コルムの犬を保護してから火をつけたこと、
- コルムが火事で死なずに生きていて、
犬の世話をしてくれたお礼をパードリックに伝えた時には少し救われました。
②妹シボーン
兄を心配し、コルムとの仲を平和に保とうと奮闘したシボーンですが、
島にいては自分の人生の目的が達せられないと判断したのでしょう。
本島で図書館司書の仕事に就き、兄を呼び寄せようとします。
シボーンは本当に賢くて優しい娘だと感じました。
③ドミニク
ドミニクは、勇気をふり絞り、シボーンに告白しました。
「付き合わないかい?」
ずっとシボーンが好きだったようです。
パードリックは
「悲しい知らせがある。ドミニクが足を滑らせて死んだようだ」
とシボーンに手紙で伝えましたが、
わたしは、ドミニクは人生に絶望してしまったのかな?
と思いました。
映画『イ二シェリンの精霊』最後まで解説と考察
パードリックがコルムの家に火をつける前に
あらかじめ時間を予告し、犬を出すよう伝えました。
愛犬は火事に巻き込まれないよう外に出されていました。
でも、コルムは中にいて椅子に掛けていました、
外には出ていなかったのです。
火事に巻き込まれなかったのでしょうか?
映画『イ二シェリンの精霊』考察① コルムは生きていた! (映像で映ったのは右手だけ、無くした指は左手)
【考察①】
火事の翌日、全焼はしていませんが焦げたコルムの家がありました。
でも、
家の前の海岸にコルムが立って海を見ている姿があり私はホッとしました。
顔にはすすが付いており、
コルムの愛犬が嬉しそうに駆け寄りました。
映ったコルムの指は右手で、愛犬の頭をなでました。
無くした左指は映りませんでしたね。
私は、コルムが火事が広がる前に脱出できてよかったなと心底うれしいです。
これで、コルムが巻き込まれて亡くなっては、悲惨すぎます。
「この火事でおあいこだな」とコルム。
「あんたが生きてるからおあいこじゃない」とパードリック。
でも、パードリックも本当は嬉しそうでしたネ。
映画『イ二シェリンの精霊』考察② コルムがパードリックを遠ざけたわけ
【考察②】
「お前が嫌いになった!」
そう言って突然パードリックとの友情を止めたコルム。
島が大好きでその生活を楽しむパードリック、
このままではいけないと疑問に思ったコルム。
ふたりのすれ違いはこの思考の違いから生まれました。
人生に限りがあることに焦り、このまま年を取りたくない。
自分が弾くバイオリンで作曲し、自分の人生に何か残したいと言います。
お前とパブでする世間話は時間の無駄だと
パードリックに説明しました。
それにしても、パードリックは納得がいきませんし、
観ていた私も、
何か別に言えない深いわけがあるのでは?
と思って続きを待ちました。
もともと思慮深いコルムですが、
自分の残りの人生を考え、生活スタイルを変えるには
パードリックとの関係を断つしかないとは、あまりにも極端な対応です。
まるで上手くいかない自分の人生を
パードリックのせいにして逃げているようです。
ところが
パードリックが事故(警官に殴られた)に遭遇したときは優しく介抱して助けました。
コルムはパードリックのことは以前同様に好きなのです。
それでも
自分が残りの人生を意義ある過ごし方をするためには、
大好きなパードリックとの心地がいい関係を断ってまで臨もうとしたのではないでしょうか?
なんて不器用な対応でしょう。
パードリックが話しかけて来て、
上手く距離が取れないからからと言って、指まで切り落としたのですから。
映画『イ二シェリンの精霊』考察③ コルムが指を切り落としたわけは?
【考察③】
「パードリックとの距離を上手く保てないときは俺の指を切り落とす」
なぜ、そんなことをする必要があったのでしょうか?
指を切り落とすのは、パードリックと話したくないからではなく、
自分が音楽家として、自信をなくしていたからでしょう。
左指でバイオリンが押さえなければ、音を作れません。
パードリックにはきっかけになってもらったのです。
人生に絶望しながら、
残りの人生を有意義に過ごしたい
音楽、作曲で何かを残したい
焦る気持ちを大好きなパードリックとの関係を止めて、退路を断つ。
そこまで自分を追い込んで結果を出すことに集中する。
思慮深いコルムの決断でした。
ただ、パードリックが話しかけてきたから指を切り落としたのは、
これで音楽家として大成できなくてもパードリックが悪いからだと言い逃れができます。
上手くいかなかった理由をパードリックのせいにできます。
コルムはきっとそこまで深く考えて行動したわけではないでしょうが、
心のどこかで逃げたかったんだと感じました。
映画『イ二シェリンの精霊』考察④ シボーンが島を出たわけは?
【考察④】
コルムが左指を一本落としてパードリックの家に投げつけた時、
シボーンは箱に入れた指を返しにコルムを訪ねました。
そのときの会話で、
コルムは「君なら分かるはずだ」と言います。
コルムはシボーンが自分同様、
思慮深いことを承知しています。
この島で残りの人生について自分を変えたいというコルムに、
「この島には退屈しかないわ、」
とシボーンは答えます。
島は、シボーンにとっても人々の関係が深すぎて、付き合いにくい環境なのです。
はじめは、鬱かな?と思ったコルムの頑(かたくな)な態度に触れ、
もうコルムにかかわってはダメだと兄に忠告します。
そして、読書好きのシボーンに届いた本土での図書館司書の採用通知。
兄のことを心配しつつ、島を出る決意をしたシボーン。
ドミニクからの告白には驚いたようですが、
傷つけないように丁寧に断りました。
シボーンは向上心のある聡明な女性です。
自分の人生の高みを目指して島から出たのです。
同様に人生の質を高めたいと思いながら、
島の生活にしがみつくコルムとの違いがそこにあります。
※シボーンを演じたケリー・コンドンの経歴の記事も書いています。
よろしければ、こちらからお読みください。
映画『イ二シェリンの精霊』考察➄ なぜドミニクは死んだの?
【考察➄】
ドミニクは一風変わっていました。
言葉を選ばず、ずけずけとものを言います。
島の人たちから頭がわるいと思われていました。
でも本当は、島の人間関係を察していて、
人々が思うより、周りのことをよく分かっていたのだろうと感じました。
子供のころから暴力をふるう父親に育てられ、
傷つき、自衛をしていたのかもしれません。
パードリックがコルムの音楽仲間の学生に嘘をついて島から追い出したのを知り、
「あんたはいい人だと思ってた」とガッカリしました。
上手くない告白でしたが、
シボーンに「付き合う気はないか?」と切り出し、
断られたときには「当たって砕けろだった」と言いました。
パードリックは、
ドミニクが足を滑らせて海に落ち、死んでしまったと
シボーンに宛てた手紙に書きました。
理不尽な父親との生活、島の人間関係の複雑さ、
長年我慢して溜まったつらい気持ち、
そのうえ
島からシボーンが出て行ってしまい、
ドミニクの心が折れたのかな、、、と思わずにはいられません。
※ドミニクを演じたバリー・コーガン(キヨガン)の経歴の記事も書いています。
よろしければ、こちらからお読みください。
映画『イ二シェリン島の精霊』まとめと感想
【まとめ】と【感想】
アイルランドの離島の景色は、
空気が澄んでいることが映像越しに伝わってくるほど美しかったです。
最後まで、コルムが突然に親友のパードリックを拒絶する理由がハッキリしませんでした。
本島から聞こえる砲弾を気にしながら、
でも、いつまでやってるんだ!と怒りながら、
島民は自分たちの暮らしに集中します。
小さな島の中の生活は退屈で、人間関係は濃密です。
毎日午後2時に連れだってパブで世間話を楽しむ。
心優しいパードリックは典型的な島の人。
思慮深いコルムは残された限りある人生に焦りを感じました。
でも、
コルムが自分の残りの人生を音楽・作曲に集中するために
パードリックと絶交までする必要はあったのでしょうか?
指まで落として拒絶する行動も
よく分かりませんでした。
はじめは鬱なのでは?と疑ったパードリックとシボーンでしたが、
コルムはパードリック以外の人とは普通に付き合うのですから。
でも、
コルムは人間性が変わってしまったわけではありません。
パードリックが警官(ドミニクの父)に殴られて倒れたときに、
以前同様優しく助け起こしましたよね。
コルムはパードリックを変わらず好きだなんだなと思ったシーンでした。
そして、
コルムはシボーンのように島から出ることは考えられない人なのです。
複雑なコルムの気持ちは二つあると思います。
1)自分自身へのいら立ちをパードリックのせいにして逃げる気持ち。
2)大好きなパードリックとの付き合いを止め、
残りの人生を充実させることに集中するために
退路を断ち、自分に厳しくすること。
最後は、海辺でパードリックとコルムの会話で終わります。
「内戦は終わりかな?」
コルムは本島の砲弾が止んだことを気にしましたが、
「どうにも終わりにできないこともある」
答えたパードリックは、
自分たちふたりの内戦は終わらず
「どうせまた始まる」と
言いたかったのではないでしょうか。
小さなことで行き違い、
こじれてしまった間柄はどんどんうまくいかなくなるものだ。
まるで、本土の内戦のように。
わたしは、そんな解釈をしました。
以上
(ここまでお付き合いいただき、
ありがとうございました。)
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